津軽塗テーマの映画「バカ塗りの娘」堀田真由さん×鶴岡監督×津軽塗職人・山岡奈津江さん 独占インタビュー

こんにちは、工芸と心地よい暮らしを探すメディアontowaです。

映画「バカ塗りの娘」は、当メディアの注目作品として紹介させていただいています。

これまでの記事は👉 映画バカ塗りの娘

また、「津軽塗」のことを知らなかったけど興味が湧いてきた方には、当メディアの記事「バカ塗りこと津軽塗の魅力」もオススメさせていただいています。(本記事は映画公開まで無料公開とさせて頂いております。)

さて、この度、主演の堀田真由さん、鶴岡監督、そして堀田さんに津軽塗の実技指導をされた津軽塗職人の山岡奈津江さんに映画撮影を振り返っていただきました。

今回は、津軽塗の制作シーンや作中に出てくる道具のことなどを中心にお話を伺いました。

なお、堀田真由さん、鶴岡監督と共に、津軽塗職人の山岡奈津江さんを交えての本対談は、ontowaの独占レポとなります。

ここからはインタビュー形式でお楽しみください。

この映画で、はじめて漆や漆器のことを知る方もたくさんいらっしゃると思います。
漆の魅力は、どういったところにあると感じていらっしゃいますか? 

(山岡さん)
艶だったり経年変化だったり、出来上がった製品の魅力ももちろんありますが、塗料としての面白さもすごくあるんです。

私は昔、建築の塗装をしていた経験があるのですが、漆は他の塗料と全く違います。

放っておいても乾くものでは無いし、化学変化で乾いたりもするし、その分からなさや毎日手をかけてあげないといけない感じが子供を育てる感覚のようで、本当に不思議な塗料なんです。

同じ赤でも明るい赤、暗い赤になったりもするし、同じような環境で作っているつもりでも何故か違かったりする時もあって、とても面白いんです。

映画の中で、小林さん、堀田さんお二人の塗りの所作が、完全に職人となっていて驚きましたが、どのような方法で、どれくらいの期間、指導されていたのでしょうか?

(山岡さん)
事前に録画したビデオを見て工程を知ってもらいました。

撮影前日に実際に作業の様子を見て頂いたのですが、箆(へら)とタコ吸というお椀をくっつけるものをホテルに持って帰って自主練をして頂きました。

(堀田さん)
ペタッ、ペタッと漆をつける時に、私は結構ベタっといってしまって。

(鶴岡監督)
一定のリズムで、同じ高さで作業していかなければいけないんですよね。

(堀田さん)
綺麗にしようと意識してもその後研いでしまったりするので、それよりもスピードが大事だと現場ではお聞きしていました。難しかったです。

監督が津軽塗の制作シーンを撮るにあたって、こだわった部分を教えてください。

(鶴岡監督)
作業をしているのが嘘にならないように、「この人実際は職人じゃないんでしょ?」と観客に伝わってしまうような、芝居をしている感じを見せてはいけないと思いました。

その点はプレッシャーでしたし、本当に山岡さんと松山さんに付きっきりで手伝って頂きました。

時間との戦いでもあったので、本当に皆さんに力を貸して頂きました。

唐塗の制作シーン、映画では仕掛けべらを手慣れた感じでお二人が扱っていましたが、仕掛けの工程はかなり難しそうに見えました。

(堀田さん)
本当に難しかったです。仕掛けの工程というより全部が難しかったです。

本当に初心者だったので、作業で使う道具の持ち方からはじまりました。

クランクイン前日に教えて頂いたのは、掃除の仕方でした。

何かを塗るというよりも片付けの仕方や基礎的なことを教えて頂いて、あとは本番前に作業のやり方を教えて頂く形でした。

とにかく目の前のことをこなすという感じで、よくお芝居ができたなと自分でも思います(笑)

もし、もう少し余裕があったら“こんなこともしてみようかな”と自分の欲が出てきそうだったのですが、兎に角、見よう見まねでやってみるということが美也子の役と合っていたので良かったですね。

(鶴岡監督)
音がかなり面白いので、実は編集で音を足しているんです。

仕掛けの工程も画として魅力的なので、映画本編ではしっかり見せたいなと思いました。

お椀に打つのが難しそうでしたね。

(山岡さん)
曲面は私でも難しいです(笑) 

小林さんにはベテランだと分かるように少ない手数で早い動きを指導する形にして、堀田さんには漆をはじめたての感じで作業しているように見せました。

でもだんだん上達してきて、刷毛を洗っているところを見た時に「あ、上手いな」と思いましたね。

(堀田さん)
美也子と一緒で、どんどんやりたい!となってしまいました(笑) 

唐塗は、ひとつとして同じ柄がなく面白さがありますね。

(山岡さん)
どの職人さんも作る前にイメージしてから仕掛け始めると思うのですが、自分の好きな唐塗の模様もあると思うので、その辺は個人個人のつけ方、高さとか柔らかさとか乾きの調整とかで変わってくると思います。

研ぎの工程もしっかり映像化されていて感激しました。気持ちの良い音で心地よさもありましたが、映像化では、どういうことを意識されていたのでしょうか?

鶴岡監督
研ぎ始めて模様が出てくる瞬間に“わっ!”となります。そこにフォーカスして撮りたいなと思いました。

“だから平らになっているのね”と気づくことが凄く新鮮だと思うんです。ここはこだわって撮りました。

映画ではお二人が研ぐシーンも何度かありました。実演するお二人にどのようなアドバイス、実技指導をされましたか? また、少しずつ研ぐ道具を変えているように見えました。砥石→耐水ペーパー→炭と変えるなどしていたのでしょうか?

(山岡さん)
映像的にある程度大きな動きにした方が伝わるのかなと思ったので、ちょっと大げさに大きく動いてもらうようにしました。

研ぐ道具ですが、下地の地磨きの時は、砥石を使っていましたが、それ以外の水研ぎの作業は全て耐水ペーパーを使っています。

今回の設定として、一般の数をこなす職人さんの作業の仕方とさせて頂きました。

 形式的には砥石→炭なのですが、砥石や炭の入手のしにくさや値段も考慮して、地場産業として量産する職人さんはより効率的に水研ぎできる耐水ペーパーに変わってきているようです。

耐水ペーパーを巻き付けるものは、工程で砥石→木→消しゴムと硬さを変え、工夫しています。

道具を作る職人も不足していると聞きます。
実際、仕掛けべらは、職人自らがオリジナルで作って利用していると聞きましたが、 あの面白い形の先端は、何で作られているのでしょうか?

(山岡さん)
塩化ビニル板に三つ目錐などで穴を空けてつくっています。

今は塩ビですが、その前は木材、江戸・明治は油紙を使っていたそうです。

職人がそれぞれの仕掛けべらを作るので、形や大きさもそれぞれ。同じように見えるかもしれない唐塗ですが、実は個性が出ています。

枯渇する道具がある中、皆さんがご利用の道具で、先人の方々から受け継がれてきたものがありますでしょうか? 

(山岡さん)
劇中にも使用されていますが、漆のクロメ(精製)に使う鉢や棒は長年の摩耗で滑らかに使いやすい形になっていたり、定盤や箆(へら)やちょっとした道具も、試行錯誤して、より使いやすく馴染むよう工夫されたものを見ると、まだまだ教えてくださっているような感じがします。

刷毛や材料など希少になっているものは、津軽塗を辞められた方から譲っていただいたりする事があります。

こちらも、とても綺麗にメンテナンスされている刷毛など見ると、漆への想いが伝わってくる気がして、身が引き締まります。

※ クロメ:「クロメ」とは、漆の精製時に余分な水分を取り除く作業。
精製前の生漆(きうるし)を天日や電熱器などで温めながら、長い時間「なやし」て 「黒め」て、塗装に使う漆に精製します。なお、「ナヤシ」とは、漆をかき混ぜて、漆の質を均一にする攪拌(かくはん)作業のこと。
ウルシの木から採取した天然の漆液を荒味漆(あらみうるし)といい、ゴミを濾過して取り除いた漆を生漆(きうるし)といいます。
生漆は、クリーム色ですが、この精製工程を経てアメ色の透き通った透漆(すきうるし)になります。
この漆に、鉄分を混ぜて黒い漆ができたり、顔料を加えて、朱色などのカラフルな漆を精製して使います。
劇中でも漆の精製シーンが映し出されていますので、お見逃しなく!

監督より、撮影は時間との戦いであったとの話もありましたが、撮影が終わってみてどうでしたか?

(堀田さん)
津軽塗は、本当にやればやるほど色んな形になるというのもそうですけど、作業の工程としてもとっても楽しくて愛着が湧きました。

(山岡さん)
とにかく無事に終了してよかったです。

(鶴岡監督)
撮影が無い時は裏でピアノの塗りをして頂いていました。多忙でしたね。

(山岡さん)
忙しかったですが、夢のような幸せな時間で楽しかったです。

今回は貴重なお話をありがとうございました。

皆様にお話いただいた一言一言が、とても尊く素敵なお話でした。

今回お話いただいた制作シーンのご苦労談、細部へのこだわりは、実際のほんのイチブで、映像化の難しさに何度も直面しながらの撮影だったに違いありません。

私たちも、漆芸作家や産地の職人の方々にお話を伺う機会が多いのですが、その中でもこの津軽塗は、独特の道具や制作工程が多数あり、津軽塗の奥深さにすっかり魅了されてしまいました。

津軽塗にますます興味を持つ機会を頂いたこの映画との出会いに感謝したいと思います。

小林薫さんと堀田さんが代役なしで撮影に臨んだ津軽塗の塗りや研ぎのシーン、そして数々の道具やそのメンテナンスシーンは、普段全く目にすることのないものばかり。

是非、劇場の大画面でこの映画をお楽しみいただきたいと思います。

映画の全国公開は、2023年の9月1日から、青森県は先行公開で8月25日からです。

8月9日の舞台挨拶で堀田真由さんがおっしゃったように、

私たちも「心地よかったと思える映画」として、映画「バカ塗りの娘」を推してまいります。

本作品との出会いをキッカケに、日本の漆芸、工芸にも興味を持っていただき、楽しんでいただけたらと思っています。

本作品が一人でも多くの方に届きますよう、一緒に盛り上げてまいりましょう。

映画「バカ塗りの娘」

2023年9月1日(金)全国公開 / 8月25日(金)青森県先行公開

【ストーリー】
「私、漆続ける」その挑戦が家族と向き合うことを教えてくれた――
青木家は津軽塗職人の父・清史郎と、スーパーで働きながら父の仕事を手伝う娘・美也子の二人暮らし。家族より仕事を優先し続けた清史郎に母は愛想を尽かせて出ていき、家業を継がないと決めた兄は自由に生きる道を選んだ。美也子は津軽塗に興味を持ちながらも父に継ぎたいことを堂々と言えず、不器用な清史郎は津軽塗で生きていくことは簡単じゃないと美也子を突き放す。それでも周囲の反対を押し切る美也子。その挑戦が、バラバラになった家族の気持ちを動かしていく――。

【クレジット】
堀田真由/坂東龍汰 宮田俊哉 片岡礼子 酒向 芳 松金よね子 篠井英介 鈴木正幸 
ジョナゴールド 王林/木野 花 坂本長利/小林 薫
監督:鶴岡慧子 脚本:鶴岡慧子 小嶋健作 
原作:髙森美由紀「ジャパン・ディグニティ」(産業編集センター刊) 
企画プロデュース:盛 夏子 プロデューサー:遠藤日登思 松岡達矢 福嶋更一郎 
ラインプロデューサー:大川哲史
撮影:髙橋 航 照明:秋山恵二郎 録音:髙田伸也 音響効果:齋藤昌利 美術:春日日向子 
装飾:松尾文子 衣裳:藪野麻矢 ヘアメイク:光岡真理奈
編集:普嶋信一 音楽:中野弘基 スクリプター:押田智子 スチール:蒔苗 仁 助監督:栗本慎介
製作:「バカ塗りの娘」製作委員会 制作プロダクション:アミューズ映像企画製作部 ザフール 
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2023「バカ塗りの娘」製作委員会
2023年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/118分

公式サイト:https://happinet-phantom.com/bakanuri-movie/
公式Twitter:@bakanuri_movie
公式Instagram:@bakanuri_movie


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