広島漆芸作家 高山尚也さん 工芸のチカラを信じて G7広島サミットの贈呈品に込めた想い

こんにちは、工芸と心地よい暮らしを探すメディアontowaです。

2023年5月19日から21日の3日間にG7広島サミットが開催されましたね。

各国首脳へさまざまな贈呈品が渡されましたがご存知でしょうか。

今回は、G7広島サミットの数ある贈答品の中で、広島市からの各国首脳への贈呈品である酒器セット「伝」と、岸田裕子内閣総理大臣夫人からの各国首脳の配偶者への贈呈品である椀セット「曙」を制作された広島漆芸作家 高山尚也さんにお話を伺いました。

高山尚也さんは、「伝統的な技術で新しいものを生み出す」をコンセプトに広島で活躍する漆芸家さんで、2020年に第63回日本伝統工芸中国展で「あけぼの」が広島県知事賞、21年に第38回日本伝統漆芸展で「ながれ」が朝日新聞社賞、22年には、第69回日本伝統工芸展で「あけ」で入選など、立て続けに賞を受賞されています。

そして2022年、広島の特産品のなかで、とくに優れたものだけが認められる「ザ・広島ブランド」として「広島漆芸 高山尚也」の認定を得ています。

それでは、ここからはインタビュー形式でお楽しみください。

今回の制作のきっかけやデザインについてお聞かせください。

まず 「伝」ですが、2022年12月に広島市から、「広島市をイメージしたものを作って欲しい」と依頼を受けました。

広島で生まれ育ち、平和学習を受けてきたので、平和の象徴である「鳩」をモチーフにした片口を制作しました。猪口(ちょこ)は島、盆(板皿)は瀬戸内海、全体は「多島美」をイメージし、色も青と黒にしました。

「曙」は、朱と黒の漆を使い、朝日が昇る「曙」をイメージしました。何かの「はじまり」という意味を込めました。岸田裕子夫人が、色のデザインをされ、朱と黒のバランスの配分にこだわっておられたので、それを忠実に、きれいなグラデーションで表現することに注力しました。

岸田裕子夫人からは、2023年年1月、広島在住の同級生の方を通じてご連絡をいただき、工房の見学にいらっしゃいました。その後、何度か工房へ来られ、塗りのデザインについて打ち合わせをさせていただき、すべての贈呈品に漆を塗る、最初の工程の作業もおこなっていただきました。

「伝」(でん)
完成したフォルムがなんとも美しい作品ですが、工芸の技法やこだわりの点を伺わせてください。まずは、 「伝」、「曙」の工程について教えていただけますでしょうか。

まず、ともに「呂色仕上げ」という技法を用いています。ぼかし塗りをしたあと、細かい傷をつけて研ぐ技法です。

「曙」からお話しますと「曙」は、まず生漆により木地固めをします。淵と底には補強のための布貼りをしています。 布張りの段差を消すため布幅よりも広い幅で漆の下地を施し、研ぎ 、さらに幅を広げ下地を施し研ぎを重ねます。 

全体に下地が回るまで3回ほど繰り返しています。その後、全体に3回、そして砥粉下地を状態を見つつ 3〜4回、重ねています。その後で、下塗り・ 中塗り・ 上塗り・仕上げ塗りと進めていきます。

次に「伝」ですが、石膏型を使用しています。 今回は1点ものの作品とは 違い(同じもの)という依頼でしたので、3Dプリンターにて石膏型を作る型を製作しました 。

石膏型に漆下地→ 布貼り→ 研ぎという工程をを5回ほど繰り返した後石膏を抜き、形を整え、素地としました。ここから先は 猪口(coro)も、「曙」の工程とほぼ同じです。

「曙」(あけぼの)
下地ができるまで工程だけでもかなりの作業量ですね。色々とご苦労があった思います。

「伝」は2022年年12月中旬から制作に入り、2023年4月上旬に完成しましたので、およそ4カ月間。「曙」は2023年1月から始め、4月上旬に完成しましたので、およそ3カ月で仕上げました。ほかの仕事を調整させていただき、集中して作ったので、通常よりも、短い期間で作り上げました。

両方とも、発注時が 12月〜1月と寒い時期であったため、湿度と温度で乾燥する天然漆での作業は、扇風機を使って早く水分を飛ばす工夫やムロの湿度・温度の管理にも苦労しました。

完成度をかなり上げなければならなかったので、プレッシャーもありました。

日本おいて、この時期での漆塗りは、他の時期より湿度と温度の調整が難しく、相当のプレッシャーの中での作業だったとお察しします。

そんな中で、この完成形では見えない部分の工程も、呂色仕上げには大きく影響を与えると思いますが、どのような部分にこだわりを持って制作されていますでしょうか。

私は中塗りの段階からグラデーションを作っています。

グラデーションは私の作品の最大の特徴なのですが 、中塗りからグラデーションを作り、研ぎ塗り重ねることで、より深みのある色に仕上げることができると考えております。

中塗りからグラデーションを考慮して制作されているとは驚きです。高山さんのこだわりが、この仕上がりを生み出しているのですね。呂色仕上げに至る工程で普段の作品との違いや工夫などはありますでしょうか。

呂色に関しては、私は仏壇仏具の職人であり 京都にて呂色師をしておりましたが直線的な造形の仏壇と違い、流線型になると研ぎの力加減など難しく苦戦いたしました。

これまでに日本伝統工芸展に作品を出展を続けてきた事で、一品一品違う作品に取り組むという経験が役に立ったと思います。

この「伝」の美しいフォルムは、乾漆ですよね。猪口も木材でなく綿の下地で面白いなと思いますが、乾漆の面白さ、魅力などについて感じておられること、想いを教えてください。

乾漆は作家自身が思い描く自由な造形を作る技法です。 私は私がイメージするものを「乾漆」という技法と色で表現しています 。

皆様に私が描く広島の平和が伝われば嬉しく思います。

最後にそれぞれの贈呈品に込めた想いをお聞かせください。

「伝」、「曙」それぞれをお持ち帰りいただき、広島のことやG7のことを思い出していただきたいです。

とくに「伝」は平和の象徴である鳩をモチーフにしているので、平和のことも思い出していただきたいです。

「曙」は、日の出でめでたいイメージで作っています。実際のお食事で使っていただき、漆の質感や漆のよさを知っていただきたいです。

今回は貴重なお話をありがとうございました。

この短い期間に2つの作品をコンセプト検討から最上級の作品に仕上げた高山さん。

各所の意向を引き受けての制作はもちろんのこと、他の仕事もあっての中でのスケジュール調整を含め、多くのご苦労があったと察しますが、こうして無事に各国首脳および配偶者の皆さまへ贈呈品が贈られたことは、大変喜ばしく、とても尊いことだと思います。

日本の漆芸の技術やたくさんの人の想いが作品に宿り、世界に羽ばたいたのです。

私たちも日本の工芸が持つ「想いを伝えるチカラ」を改めて強く感じたと共に、世界の平和を強く願い、瀬戸内海のような穏やかな気持ちをいただきました。

漆器は月日と共に、艶が増したり、色味が明るくなっていくなど、漆器そのものも生きているように、変化していきます。

今回、各国に旅立った漆器は、それぞれの国の湿度や温度で、全く異なる成長を遂げていくでしょう。想像すると、それだけでもワクワクします。

各国首脳および配偶者の皆さまも、一つとして同じにならない変化していく漆器の不思議さ、面白さ、そして美しさをこの先の近い未来でも改めて感じることになるでしょう。

そして、今回の作品が、普段使いもできるものでしたので、その口当たりや手触りの心地よさを暮らしの中で体感しつつ、作品に込められた平和への想いを感じ、これからの平和な世界へと導いてくださることを強く願います。

なお、この高山尚也さんの作品は、多数の反響があり、急遽、販売もされることになったそうです。全て高山さんの手作業となるので、数量限定で、お届けは来年2024年5月ごろを予定しているとのことです。ご興味ある方は、お早めに高山さんの公式サイトにてお買い求めください。

高山尚也さん公式サイト https://naoyatakayama.com/ 

高山尚也(たかやま・なおや)プロフィール
1981年1月26日、広島市中区生まれ。同堀川町の老舗の仏壇・仏具製造販売を営む「高山清」の4代目として育つ。龍谷大学短期大学部仏教科を卒業後、京蝋色大塚に弟子入りして、呂色(ろいろ)の技術を身につけ、寺院、仏具の製作や修復に携わる。28歳のとき、広島へ戻り、県下の寺院の修復を行い、定評を得る。2018年ごろから、広島漆芸作家として「伝統的な技術で新しいものを生み出す」をコンセプトにした、制作活動を本格化。「広島漆芸 高山尚也」のブランドを立ち上げた。2020年に第63回日本伝統工芸中国展で「あけぼの」が広島県知事賞、21年に第38回日本伝統漆芸展で「ながれ」が朝日新聞社賞ほか、立て続けに受賞して、その名が一気に知れ渡る。22年に第69回日本伝統工芸展で「あけ」が入選し、広島の特産品のなかで、とくに優れたものだけが認められる「ザ・広島ブランド」として「広島漆芸 高山尚也」が認定された。2023年5月の広島サミット開催にあたり、開催都市の広島市からG7首脳とEU議長及び委員長への贈呈品の制作を依頼され、広島漆芸「伝」を作り上げた。また岸田文雄首相の裕子夫人から、ご指名を受け、G7首脳とEU議長及び委員長の配偶者への贈呈品として、広島漆芸「曙」を制作

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