墨という道具は、東洋の文化において、書道や絵画、さらには学問や教育の発展等、重要な役割を果たしてきました。
また、墨の持つ、表し難いような複雑な黒色と、心地の良い香りは、東洋の美学と精神性を象徴するものであり、今なお多くの文化人に愛用されています。
「墨に五彩あり」という言葉があり、墨は単純な黒一色にとどまらず、濃淡や光の当たり方によって微妙に変化する多様な色合いを持ちます。
その墨の色調は、書や絵画において表現の幅を広げる重要な要素として、表現者の思想や感情を湛えてきました。
そして、日本の墨の中でも、奈良県で生産される奈良墨(ならすみ)は、現在の日本で作られている墨のシェアの9割を占める、代表的な墨です。
品質の高さで知られ、国内外において高く評価されています。
奈良の墨づくりの歴史は奈良時代にまでさかのぼり1、長い歴史の中で培われた技術と伝統ある文化が、現在の奈良墨の品質を支えています。
今回は、奈良墨について歴史と魅力を紐解きながら、その深く、鮮やかな墨の世界を一緒に探索してみましょう。