音声で聴く
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お陰様で、工芸に関心を持ち、会社をスタートして、5年が過ぎました。
その間に、工芸に特化したクラウドファンディング「casanell(かさねる)」を、また工芸を盛り上げるべく音楽レーベル「ontowa records」を立ち上げました。
このわずか5年間の間に、未曾有の事態が起き、いつもの日常がなくなりました。 そんな中で、改めて、何気ない暮らしの尊さを知りました。
自宅で過ごす時間が増えたことによる新たな発見もありましたが、残念なことに、自由にできない心地悪さ、肉体の変化など、長きにわたり不自由な選択を強いられる暮らしが、現実となりました。
これからの10年は、会社設立時の5年前に思い描いた未来とは異なるものになるでしょう。
これから先の未来に私たちに必要なことは、一体何でしょうか?
ここ数年、たくさんの出会いの中で、考えてきました。
私は、この先の未来に必要なこと、それは、 「どんな時でも、瞬時に心を穏やかにスイッチできる能力」なのではという考えに辿り着きました。
ただ、自分の場合は、そのような能力は備わっていないようで、嫌なことがあると、引きずってしまいます。 他人から見れば、些細なことでも、悶々としてしまいます。
そんな時、気持ち良い手触りや木の暖かさ、工房での匂い、美しい佇まいなど、工芸は、私の五感を刺激し、その度に、私の気持ちを晴れやかにしてくれました。
自らの五感に気持ち良い刺激を与えることで、「どんな時でも、瞬時に心を穏やかにスイッチできる」ようになる、その役割を工芸は担っているのだと気づいたのです。
そしてもう一つ、工芸の魅力を紹介させてください。
それは、工芸を通じて学ぶ日本独特の文化が、追われるように働いていた私に「尊ぶ」という気持ちを再認識させてくれたということです。
事業をスタートしてから、たくさんの作り手の方々と話をさせて頂く機会がありました。彼らが先人から学んだ技術や知識は、どれも理にかなっていて、遥か昔に、一体どのようにして編み出され、今日まで続いてきたのだろうと、驚くことばかりでした。
例えば、天然の漆を用いての漆器制作工程では、完成品では目に見えない下地の部分から細心の注意と技術で漆器を作ります。私は、漆器を使い込む内に、下地が丈夫に作られたものと、そうでないものが、明らかに異なってくるということを、普段使いの中で体験しましたが、完成品だけをみても素人の私には、下地がどうなのか全くわかりません。
また、刀剣の製作工程では、刀鍛冶が、玉鋼という高純度の鋼を、炉に松の炭で起こした炎で熱し、叩いて薄く伸ばし、そして折り返して、また鍛えるという鍛錬という一連の工程を何度も繰り返します。この結果、この鋼はなんと3万を超える層にもなるとのこと。
このように、工芸には、完成品だけを見てもわからないほど、塗る、叩く、染めるという行為を何度も繰り返す工程がたくさんあります。
私は、人の目に映らないところにも、しっかりとこだわりを持つ作り手の姿勢に感銘をうけました。
また、私は、この繰り返し行われる行為が、自然界のカミに「祈り」を捧げる行為に通じるものにも思えて、工程そのものも、とても神聖で特別なことに思えるのです。
このように感じるのは、日本に古くからある「アニミズム」の考え方を、工芸を通じて知ったからです。 「ものには魂が宿る」という言葉は、皆さんもご存知のことでしょう。これは、「アニミズム」の考え方からきたものです。
現代では「精霊」などという「科学的に観測されないもの」を信じる人も減り、「尊ぶ」という思想も薄れているように思います。
しかし、今、世の中では、SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」や「サスティナブル」という考え方が注目され、取り組む組織や人が増えています。
工芸には、現代においても、限りある天然資源を使い製作している尊いものがたくさんあります。
作り手との対話の中でも、材料となる資源に対する関心が高い人はたくさんいますし、昔から自然の恩恵を受けていることへの感謝の気持ちを忘れていないという考えや、それらが今は手に入りにくいので自ら育てているという原点回帰のような考えを聞くことがあります。
これらの考え方は、SDGsやサステナブルが目指す誰もが幸せに暮らし続けることができる世界に通じるものがあるのではないでしょうか。
私たちは、工芸を通じて、「尊ぶ」気持ちを育み、会社設立時に掲げた弊社ミッションである
“「日本らしさ」を継承、追求、普及し、世界中の人々の心と未来を明るく、温かなものにする“
を心に、これからも活動していきます。
日本の文化を学び、自然やモノを大事にし、好きな漆器や陶磁器を使って食事をする、お酒を飲む。
そして、工芸が好きな人と語る。
そんな時間をゆっくりと過ごす。
私には、これがとても幸せな時間になっています。
このたび、「ontowa」は、皆様の心が穏やかになるような「工芸と心地よい暮らしを探す」ことをテーマに、スタートしました。
「ontowa」(おんとわ)とは、
温かい意味を持つ、「おん」(恩、温、穏、音など)と、
日本の和、平和、前向きな意味を持つ、「わ」(和、輪、話、湧、羽)を繋げた造語です。
そこに永遠(とわ)に続くという願いを込めました。
「ontowa」は、これらの音の響きや意味合いからの連想を核としてサービスを構想しています。なんて稚拙なんだと笑われてしまうかもしれませんが、こういう発想自体も楽しみながら、これから少しづつ成長していければと考えています。
そして、今の時代、何ごとにもスピードが求められるようになりましたが、そういうことに振り回されずに、ゆっくりであっても、私たちが掲げるバリューである「つなぐ、かんがえる、こだわる、たのしむ、そして、そだてる」を、しっかりと実践しながら、皆様と一緒に、心地よい暮らしを探していければと想っています。
2021年6月2日
株式会社ジャパングローサーズ
取締役
ontowa プロデューサー
たけだ かずよし