桜、春を告げる花 – 日本の花見文化にふれる –

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よく晴れた、あたたかい春の日。

青空を染めあげるように、桜が咲きはじめる季節になりました。

私たちにとって桜は、春の訪れを告げる大切な花です。

やわらかい春の日差しを浴びた風に包まれて。

薄いピンク色の花びらが、咲いたそばから散りはじめる姿も、どこか切ないですね。

この季節は、日本各地の公園などで、花見を楽しむ様子が見られます。

花見は、桜を眺めながら友人や家族と飲食を楽しむ、春の風物詩ともいえるイベント。

こうした風習は、いつからはじまったのでしょう。

そして私たちはなぜ、こんなにも桜に親しみを感じるのか、ちょっと不思議にも思います。

今回は、桜と花見についての歴史や風習をたどりながら、私たちの心に深く根づいた桜への想いを見つめてみます。

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古くから人々の心をひきつけてきた桜

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桜は、日本を代表する花。

「さくら」の語源については、さまざまな説があります。

  • 「咲くる」という言葉がもとになっている説
  • 日本神話に登場する「コノハナサクヤヒメ」から来ている説
  • 「さ」を稲の神さまの呼び名、「くら」を神さまが座る場所として、春に稲作の神が桜へ憑依し、秋の実りを約束する説1

桜の種類は、日本に自生する基本の野生種が9つ、そこから自然交雑した品種が100以上、人工的に交配された園芸種は200以上あると言われています。2

野生種のうちのひとつ、ヤマザクラ(山桜)は、古くから日本に自生していました。

日本最古の和歌集『万葉集』からも、桜を愛でる人々の心を読み取れます。

今日のためと 思ひて標(し)めし あしひきの 峯(を)の上(へ)の桜 かく咲きにけり

現代語訳:今日の宴のためにと標(しるし)をつけておいた峯の桜は、こんなに美しく咲いたことよ。

万葉集 巻十九 4151 大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)3

ただ、万葉集が編纂された奈良時代には、中国から渡来した梅の花のほうが、桜よりも人気だったようです。

その後、平安時代になると、貴族の間で桜を観賞する機会が増え、桜の栽培が広まりました。

平安時代に編まれた『古今和歌集』の中から、はかない桜の魅力を伝えた歌を紹介しましょう。

世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし

現代語訳:この世の中に全く桜が無かったならば、春を過ごす心はのどかであっただろうに。

古今和歌集 53 在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)4

桜が開花すると、私たちは花見などを楽しみます。

満開の桜の下で過ごすひとときは、春の訪れを五感で感じる贅沢な時間です。

ふわりと風に舞う花びらや、淡いピンクの景色に包まれると、心が浮き立つような感覚になりますね。

その分、短い期間で花が散ってしまう様子は、よりいっそう寂しく感じます。

咲き誇る豪華さと、散り行く切なさ。

この儚さこそが桜を特別な存在にしているのかもしれません。

咲き誇る豪華さと、散り行く切なさ。

一瞬の美しさを惜しみつつも愛でる、これも桜の持つ魅力のひとつなのではないでしょうか。

また、電話が普及していなかった昭和の時代には、大学入試の合否を知らせる電報にて、合格の場合は「サクラサク」、不合格の場合には「サクラチル」と記すことがありました。5

人々の桜に対する想いは、春の訪れを喜び、その終わりを悲しむ気持ちと重なって、はるか昔から続いてきたように思えます。

貴族の雅と庶民の祈りが融合した花見文化

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桜を愛でる文化は、平安時代の貴族たちからはじまったと紹介しました。

ですが、実は庶民たちの間でも、春に桜を見る風習があったのです。

庶民の花見は、その年の豊作を願うお祭りのうちのひとつで、「山遊び」や「山入り」と呼ばれました。

人々は山で宴会をして、山から下りてくる神さまを迎え、祈りを捧げたと考えられています。

こうした風習は、三月三日の「上巳(じょうし)の節句」や、卯月八日(うづきようか/旧暦四月八日)の「花見八日」などに行われてきました。6

一方、貴族たちが親しんだ花見は、戦国時代には豊臣秀吉などの大名に受け継がれ、多くの花見が催されました。7

江戸時代になると、八代将軍・徳川吉宗が江戸へ桜を数多く植樹します。

徳川吉宗は質素倹約という印象ですが、飛鳥山(東京都北区)においては、庶民が自由に花見をできるように許可しました。

そこから、花見の文化が都市部の庶民たちへ広まったと考えられています。8

こうして貴族や武士などが行った花見と、庶民たちが楽しんでいた花見は、徐々にひとつの文化へまとまり、現代の花見へとつながっていくのでした。

花見を楽しむための料理とマナー

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桜の開花宣言が近づいてくると、お花見の予定を立てたくなりますね。

お花見を楽しむために、準備しておきたいことをまとめてみました。

桜を使った花見のお料理

お花見の場所で飲食ができる場合は、お弁当を持ち寄るのもいいですね。

桜を使ったお料理で、お花見を華やかに盛り上げましょう。

桜餅

桜と言えば、桜餅

あんこが包まれたお餅を、塩漬けした桜の葉でくるんだ春の和菓子です。

関東ではクレープ状の生地を使った「桜餅」、関西では粗く挽いたもち米・道明寺粉を使った「道明寺」が知られています。9

あんこの甘みと桜の葉の塩味が絶妙にマッチして、幸せな心地になりますね。

桜の塩漬けをトッピング

桜の花を塩で漬けた「桜の塩漬け」は、お花見の料理を引き立てます。

ピンク色の「桜でんぶ」をふりかけたお稲荷さんにトッピングしたり、おにぎりの具として一緒に握ってみたり。

見た目も華やかで、彩りよく仕上がりますよ。

また、桜の塩漬けを保存容器へ入れ、水筒にはお湯を入れておくと、現地で桜茶を飲むことができます。

花見のマナー

お花見をする場所では、注意事項などをよく確認しましょう。

お花見の代表的なマナーは以下の通りです。

ルール確認:場所ごとの規定を守りましょう
適切な場所取り:必要最低限のスペース確保を心がけましょう
静かに楽しむ:騒音は控えるようにしましょう
ゴミは持ち帰る:分別してきれいに片付けましょう
飲食節度:飲みすぎ・食べ物の無駄を避けましょう
火器の使用注意:許可がある場合のみ安全に使用しましょう
植物保護:桜を傷つけないようにしましょう
時間厳守:深夜・早朝の宴会は避けましょう
短時間・少人数:混雑を避ける工夫をしてみましょう
ペット配慮:リード使用や糞の処理を徹底しましょう

マナーに気をつけて、花見をする皆で、心地よく花見を楽しみましょう。

全国の花見の名所、いつ行くのがおすすめ?

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有名な桜の種類と見頃の時期を、花見の名所とともにまとめてみました。

■カワヅザクラ(河津桜):2月中旬〜

 名所:静岡県の河津川、神奈川県の三浦海岸など

早咲きの桜として知られるカワヅザクラは、濃いピンク色の花を咲かせます。

昭和33年(1958年)に静岡県河津町にある飯田邸へ移植されて広まり、新品種であることが判明。

その後は「カワヅザクラ」と命名され、河津町の木となりました。10

■エドヒガン(江戸彼岸):3月下旬~

 名所:岐阜県の淡墨公園、山梨県の実相寺など

エドヒガンという名前は、春のお彼岸の頃に開花することから来ています。

薄いピンク色の花びらをつけ、長寿の木も多いとのことです。

岐阜県の根尾谷・淡墨公園にある樹齢推定1300年の桜は、散り際になると薄い墨のような色をおびることから、「淡墨桜(うすずみざくら)」と呼ばれています。11

■オオシマザクラ(大島桜):3月下旬~

 名所:伊豆大島の都立大島公園、神奈川県の箱根園など

東京都の伊豆諸島に自生する野生種・オオシマザクラ。

花の色が白く、葉がとても大きいため、桜餅の葉として使われています。

伊豆大島の都立大島公園には、樹齢800年以上とされるオオシマザクラの巨木があり、「さくらっかぶ」と呼ばれています。12

■ソメイヨシノ (染井吉野):3月中旬・下旬~
 名所:宮城県の白石川堤、東京都の目黒川、上野恩賜公園、岡山県津山城など

ソメイヨシノは、オオシマザクラとエドヒガンが親品種とされる園芸種です。

現代で一番よく目にする桜の品種で、日本の桜の8割がソメイヨシノとされています。

宮城県の白石川堤の8kmにわたる桜並木は「白石川堤一目千本桜(しろいしがわづつみひとめせんぼんさくら)」と呼ばれます。

蔵王連峰をバックに咲きこぼれる、雄大な桜を堪能できます。13

また岡山県の津山城の桜は、立派な石垣を背景に豪華に咲き誇り、昼は歴史情緒あふれる景色、夜は幻想的なライトアップが楽しめる名所です。

■ヤマザクラ(山桜):4月上旬・中旬~

 名所:京都府の醍醐寺、奈良県の吉野山など

古くから日本に自生している野生種のヤマザクラは、白色や淡い紅色の花を咲かせます。

京都府の醍醐寺(だいごじ)では、慶長3年(1598年)に豊臣秀吉が「醍醐の花見」と呼ばれる大規模な花見を催したことで、歴史にも残る山桜の名所として知られています。14

花見を通して感じる日本文化

桜に親しみ、散る姿を惜しんだ昔の人々。

彼らが山桜の下で豊作を願い、自然の恵みに感謝した姿は、時を超え、現代にも受け継がれています。

時をこえて同じ空の下、花見を楽しむ現代の私たち。

花びらが風に舞う様子を眺めると、かつての人々が感じた感動や祈りの気持ちに触れられるような気がします。

桜はただの花ではなく、季節の移ろいを告げる使者であり、私たちの心をつなぐ存在です。

その一瞬の美しさは、人生の貴重なひとときを大切にすることを教えてくれます。

そこには、今も昔も変わらない、桜を深く愛する心がありました。

かつての人々が、山桜へ豊作を願ったように。

私たちも、これからもっと心地よい日々を送れるようにと、桜へ願いをかけてみてはどうでしょうか。

春の空のように澄んだ、清々しい日々と、桜の花のように華やかな時間が、皆さまに訪れますように。

桜が咲き誇る季節を通じて、日本の文化と自然の豊かさを心ゆくまで楽しみましょう。

<引用文献>
1 相関芳郎『東京のさくら名所今昔』郷学舎、1981年、p.2-4
https://dl.ndl.go.jp/pid/9642291/1/6
2 公益財団法人日本さくらの会HP「さくらの基礎知識」(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://www.sakuranokai.or.jp/chishiki
3 水垣久 (編)『万葉集(現代語訳付)』やまとうたeブックス、Kindle版、2018年、No.29402
4 窪田空穂『古今和歌集評釈 上巻 新訂版』東京堂、1960年、p.33
https://dl.ndl.go.jp/pid/1345654/1/22
5 『逓信協会雑誌 5月(696)』逓信協会、1969-05年、p.62
https://dl.ndl.go.jp/pid/2776980/1/34
6 渡辺昭五『歌垣の民俗学的研究』白帝社、1967年、p.49
https://dl.ndl.go.jp/pid/9545522/1/33
7 藤沢衛彦『桜年表』伊勢丹、1936年、p.21
https://dl.ndl.go.jp/pid/1096715/1/14
8 佐藤太平『桜と日本民族』大東出版社、1936年、p.211
https://dl.ndl.go.jp/pid/1072860/1/119
9 農林水産省HP「桜餅 大阪府」(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/39_26_osaka.html
10 日本教育新聞社 編『週刊教育資料 (613)(743);1999・3・1』教育公論社、1999年、p.47
https://dl.ndl.go.jp/pid/7966164/1/24
11 市原信治『根尾谷の四季』教育出版文化協会、1984年、p.8
https://dl.ndl.go.jp/pid/9539809/1/9
12 伊豆大島ジオパークHP「桜株 (さくらっかぶ )・オオシマザクラ」
(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://izuoshima-geo.org/know/highlights/ecologicalsite/ecosite-5.html
13 大河原町HP「町の象徴「一目千本桜」」(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://www.town.ogawara.miyagi.jp/2820.htm
14 佐藤太平『桜と日本民族』大東出版社、1936年、p.182
https://dl.ndl.go.jp/pid/1072860/1/105

<参考文献>
谷口貢、他『年中行事の民俗学』八千代出版、2017年
新谷尚紀『季節の行事と日本のしきたり事典ミニ』マイナビ出版、2019年
福田アジオ、他編『日本民俗大辞典 下』吉川弘文館、2000年
農林水産省HP「日本の桜の歴史」(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2303/spe1_02.html
津山観光WEB(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://www.tsuyamakan.jp/
井の頭恩賜公園HP「井の頭恩賜公園からお花見に関するお願い」
(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jimusho/seibuk/inokashira/notice.html
ウォーカープラスHP「お花見・桜名所ランキング【全国】」
(最終閲覧日:2024年11月26日)
https://hanami.walkerplus.com/ranking/

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