日常の中でふと感じる「美しい」という感覚。
それは、光の加減や形の調和、あるいは静けさの中に潜む気配から生まれるのかもしれません。
日本人が大切にしてきた「美」の根底には、光と影のあわいを味わう独特の感性があります。
その感覚を見つめ、言葉にした一冊のエッセイがあります。
文豪・谷崎潤一郎による『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』です。
昭和8年に書かれたこの作品は、日本人が古くから育んできた美意識を、光と陰の対比を通して描き出しています。
私たちは、何を美しいと感じ、どんなときに心が穏やかになるのでしょうか。
そして、「陰翳」という言葉が示す心地よさとは、どんなものなのでしょうか。
今回は、『陰翳礼讃』を手掛かりに、日本の暮らしに受け継がれる美と心地よさをひもときます。